大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2376号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕本件土地はもと訴外榎本銓吉の所有で、被告が昭和一二年榎本からこれを賃借して、その地上に本件家屋(四戸建一棟および三戸建一棟の各店舗)を建築し、原告らに各一戸ずつを賃貸して来た。ところが昭和二二年に榎本が本件土地を国に物納してしまい、国に対して地代を払わずに使用を続けていたところ、原告らが昭和三〇年五月中にそれぞれ賃借家屋の敷地部分を国から買い受けて所有権を取得した。被告所有の本件家屋については所有権保存登記がなかつたので、原告らは土地所有権に基いて、各所有地上にある建物部分の収去土地明渡を求めた。被告は、原告らが本件土地を国から買い受けた後も引続き被告に家賃を支払つて来て、その後三回にわたり家賃値上の折渉があつて、相互に地代と家賃とを支払うことは面倒なので家賃を極めて低額に定め、ことに昭和三三年一月被告が原告らに本件土地の地代を支払わねばならぬ旨申し出たところ、原告らは地代をもらつても同額だけ家賃を値上げされるのでは同じことだから現実の金銭の授受はしない旨答えたことがあるから、当時地代と家賃とを対当額で相殺する旨の土地賃貸借契約が成立した、と抗弁したほか、原告らの請求は、本件土地取得の経過からみて、信義に反し権利の濫用に当ると抗弁した。

判決は、右権利濫用の抗弁について、「其当時国から被告に、物納土地は之を賃借人に払下げる方針であるとの理由で被告にこれが買受方の交渉があつたが、被告は経済的理由でその附近の自宅の敷地を買受けただけで、本件土地は買うことができなかつた。その後国からは原告らに対して本件土地買受けの交渉があり、原告らとしては被告に買つてもらうように話したが結局その承諾が得られず、原告らとしては、もし右土地が第三者の手に渡るようなことがあれば、本件家屋には前記の如くその登記がないため、右家屋賃借権を喪失し営業の継続も困難になるおそれがあるので、前記の如く原告らは夫々その家屋の敷地である本件土地を各々買取つた。そこで被告は原告らに右土地の以後の賃貸方を懇願したが原告らの承諾を得られず、更に本件家屋を原告らが買受ける交渉もあつたが、これは双方の価格が折合わずして本訴に及んだことが認められる。」という事実を認定し、次のように説いて被告の抗弁を容れた。曰く。

「以上認定の事実、特に原告らの本件土地買受けの目的が原告らの本件場所における自己の営業の維持にあること、原告らが従来右家屋の賃借人として被告が本件土地に家屋所有を目的とすることを熟知していたこと、並びに鑑定の結果によれば本件土地の原告らが買受当時の時価は坪三万円ぐらいであるのを坪五千円の安価で買受けたこと、原告らは現在においても以前と同様に本件家屋で各其営業を営んでいること等を合せ考えて見れば、本来ならば被告は其賃借権をもつて原告らに対抗しえないにかかわらず、以上の他本件においては特別の事情なきかぎり、原告らが被告に対し本件家屋収去土地明渡を求めるのは、その所有権取得の目的の範囲を逸脱したものと認めるを相当とする。原告らは、本件の如き事態に立至つた原因は、原告らが本件土地を買受ける以前に被告にこれを買受ける機会があつたのにこれを拒否したためであり、また本件建物の登記をなすのを怠つたため生じたもので全く被告の過失に基くものであるから、本訴請求は権利の濫用とはいえないと主張し、右原告ら主張の点において被告に過失がないとはいい難いが、しかし右の如き事実があつたからとしても、当裁判所は前記認定の各事情から考えて、未だ前示認定を覆すには足りないものと認定する。次に原告らは、被告が従来賃貸人としてなすべき修繕義務を尽さず原告らにその負担を負わせ、将来もこれが義務の履行は期待できないから原告らの本訴は正当である旨主張し、被告がその義務を尽ささなかつたことは被告本人尋問の結果によつても之を認められるが、これに対しては原告としては別に法律的に取るべき手段もあり、之をもつては未だ前記結論を覆すに足る正当の理由あるものとは認めがたい。これを要するに原告らの本件土地利用は、被告の本件家屋を賃借してこれを利用することで満足されており、これが収去を求める本訴請求は、前記原告らが本件土地の所有権を取得した目的、国家経済上及び被告の蒙る経済的損失を招来する点から見て、正当な権利行使の範囲を逸脱したものというべく、社会通念に照らし之を認めることはできない」。(池野仁二)

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